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#2 事象の地平面

情報は光や電磁波などによって伝達される。インターネット上のこの文章を読んでいるという事は、発光したモニターから目で情報を得ているというわけだ。
電磁波も光もその最大速度は光速、つまり光の速度を超える事はない。
何かを観測するには、光の反射などによって情報が伝達されなければならない。この伝達が一方的になる場所がある。MM号ではない、ブラックホールである。
ブラックホールの中心部は重力が非常に大きく、一度捕まると光さえ脱出できない。そうなると真っ黒にしか見えないであろう。なので、"ブラックホール"だ。
光が出てこれないという事は、ブラックホールの中で起きた事象や様子は観測することはできないという事になる。一方的だ。
この中心部を特異点という。もはや既存の物理学や法則は通用せず、どうなっているかも知る事はできない。我々の常識が通用する"世界"と呼ばれる部分は、この特異点の外側のことだけである。

3次元の球体を2次元で描けと言われたら、みんなは紙に丸を描くだろう。ピンポン球やサッカーボールなどだ。
では、紙に丸い穴が開いているとする。書かれた物ではなく、紙の真ん中にあるのは何も無い丸い空間だ。これを3次元にすると、空間にぽっかりと球体の何も無い部分が生まれる。
ブラックホールのイメージはそんな感じでいい。では、その"無"な球体をもう一度2次元に戻そう。穴の開いた紙だ。
その穴のフチまでの紙の部分が世界だとすると、穴がブラックホールであり、中には特異点が存在する。観測する事のできない空間だ。この穴こそ"事象の地平面"だ。
ひらけた場所から地平線を見た時、地球の影になっている地平線の向こう側は見る事ができない様子から"事象の地平線"と呼ばれる事もある。
穴の開いた紙の、穴と紙の状態を逆にして考えると分かりやすいだろうか。丸い紙がそこにあったとする。それが世界だとすると、紙の周りのフチが地平線となる。その周りの紙のない空間=地平線の先で起きた事象は観測することができないので、"事象の地平線"となる訳だ。

 

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この発想が筆者は大好きである。我々の暮らす世界・宇宙の中にポツンと存在するブラックホールという認識が一般的だが、考え方を変えると球体の形をした宇宙の中に地球などが存在しており、その球体状の宇宙の外側には未知の領域が広がっている事になる。
そこは既存の物理学や常識が通用する世界ではない。時間は階段の登り降りのように移動できる"場所"のような概念かもしれないし、新たな事象は発生する事なく0から無限までが最初から同時に存在する世界かもしれない。

以前、「時間経過という概念は単なるエントロピーの増減でしかない」といった旨の論文を読んだ事がある。眉唾と言えばそれまでだが、非常に面白い内容だった。
我々は身の回りのエネルギー量の推移を観測しているだけで時間など最初から存在していない、という論であった。
時計の針は電池を消費したモーターによって動かされ、火をつけたタバコの葉は酸素と反応を起こし燃えて減っていき、燃えた際に放出された熱は空気中に分散し、iPhoneのバッテリー内に蓄えられた電気はアプリやwebの観覧による情報処理やCPUの発熱などによって消費され、その情報を文章や音といった形で観測した我々も、その観測と処理を行う際にカロリーというエネルギーを脳で消費し、結果腹が減り、夜食に手を伸ばす。
そういったエントロピーの増減の観測こそが我々が普段感じている時間という概念の正体だというのだ。実に痛快である。

ここで筆者の部屋の窓にも、8分19秒かけて太陽からたどり着いた光が、今にも武蔵野野辺の地平線から差し込まんとしている。
夜食のため箸を取るので、筆を置かせて頂きたい。

Estoy Ukaus
東京都出身。John Titorとは父方の従兄弟にあたる。
執筆業やLSDの精製、自転車の窃盗などで生計を立てている。
愛猫の名前はピート。好きな数字は”42”。

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