ハイファッションからアンダーグラウ ンド、日本からアメリカ、トラビス・ スコットから僕らの友達まで。 陽気な振る舞いとフットワークの軽さで、誰よりも謙虚に現れ大胆に撮り続ける大ベテラン、中沢氏に話を聞いた。
Kouichi Nakazawa
2002年、M.S PARK氏のアシスタントを経て独立。 Fashion,Music,エディトリアル、ポートレイト、 国内外の Music Fest や Party Snapなど、 WEB,紙媒体、広告など幅広く撮影。 年間90日くらいを USで活動。
着せられてる服よりも着てる服
どういうきっかけでフォトグラファー になったんですか?
じつはぼく建築の勉強して大学出た んですけど全然就職できなくて、フリー ターだったんスよ。カメラやったことな かったんですけど、紹介で 歳のときに オーストラリアでブライダルのカメラマ ンをやることになったんですよね(笑)
いきなりオーストラリアでデビュー 戦なんですね
先輩に「お前やってみるか?」って誘われて、「いけるっス!」みたいな感じで決まっちゃって、ぜんぜんカメラのこととか分からなかったんですけど、いっちゃいましたね。「ビザ取るぞ!」みたいな。それがきっかけです。97年で すね~ 楽しい日々でしたよ~
そこからはどういう経歴なんですか?
その後はちゃんとスタジオ入ってライティングなどの基礎知識は学びました。スタジオのあとはカメラマンの師匠について、アシスタントから色々やってましたね。今となってはブラックと言われちゃうよなことも当時は散々経験させていただきまして、勉強になりました(笑)
記事にできない部分は本人に直接聞いていただくとして... 独立後、バリバリ現役でご活躍されて、仕事もバッチリある中で、なぜ展示会を開いて「作品」という形で写真を発表するに至ったんですか?
仕事の性質上、フォトグラファーの写真ってやっぱり望まれてるものが前提としてあって、自分の撮った写真でも主 語が違うんですよね。
クリエイターは人に頼まれて物を作っていて、アーティストは何も言われなくても作った物をあとから人が価値を つけるっていう。
まさにそうっスね。そういう言い方 でいうとアーティストとしての顔も持ちたかったスね。ちょっと話が前後しちゃうんですけど、僕の場合、独立後うまい 感じで女性誌の話が入ってきて、わりと仕事がちゃんと回り始めたんスよ。モデ ルちゃんはみんな可愛いしモテるし楽しいんですけど、「そのファッションがなぜかっこいいのか」とか「なぜこのファッションが流行っているのか」とか、バックボーンがちゃんと理解できてなかったんですよね。それでも写真は撮れるんですけど、理解する間も無く消費されていってしまう気がしてて。ただただ可愛く写真を撮ってるだけみたいな感じで ….
もっと解りたかったっス。僕は好みで言うとストリートのものが好きだったので、そういう自分を反映しながら撮れたらいいんですけど、もちろんそんなに甘くはなくて。そういう時期が4 - 5年続 いてなんかこのままだとこの仕事キライになっちゃうかもしれないっていう思いが出てきたんスよね。それでアメリカに行ったんスよ。
それが何歳くらいですか?
それがもう38歳だもんね! 別にアメリカにハイファッションやりたくて 行ったわけじゃなくて、わかりやすいところで言うとテリー・リチャードソンと かラリー・クラークとか、ドキュメント ファッションを撮りたくて。だからストリートカルチャー好きの僕の好みもあって、その辺で遊んでるおしゃれな奴らが 好きなことしてる時に着てる服装の方がリアルだったんですよね。やっぱりモデルちゃんの服は着せられてる服なので。
それがモヤモヤしてたファッションのバックボーンのところですね。「着せられてる服よりも着てる服が撮りたい」っていうところ。
そうそう。そういう写真撮れたときの満足感が全然違ったんですよね。「僕 の中のクリエイティブ!」みたいな (笑) このままなんとなくこの仕事をし続けてても、きっと若い子に取って代わられちゃうし、何か変えないと自分は終わっちゃうのかなっていうのが大きかったですね。
GOTHAM TIMEZ
「ゴッサムタイムズ」ってなんなんですか?
NY行って、ファッションウィークのオファーもらってセレブリティの写真も撮ってたんですけど、結局それが権利の問題で使えない、ってなっちゃって。そういうのが結構溜まっていったんですよね。勿体無いなーと思ってて、なんかキッカケになるような写真撮れたらどうにかしてみようかなと思ってる矢先に、ファレル・ウィリアムスが香港でイベン トを開催するっていうのを知ったんですよね。そこでもうすぐそのイベント HP の「PRESS」って書いてあるところに「日本でフォトグラファーやってるコーイチっていうんですけどフォトパスおりませんか?」ってダメもとで送ったっスよ
行動力がすごすぎる...
そしたらなんとイベント前日に OK が来て、もう行くしかないんで行ってバックヤード入ってみたらファレルがス ティーブ青木と一緒にいて「うっわー近 いな~!」とか思いながら写真撮らせてくれたんすスよね。「あーこりゃいいの 撮れたなー」って思ってそれをきっかけ にフリーペーパー風の自分のポートフォリオとして自分のスナップと溜まってた セレブの写真をまとめたのが「GOTHAM TIMEZ」。売ると問題になっちゃうんで、会った人に配るスタイルで。
ゴッサムタイムズ初めて見せてもらった時に、「ハイファッションの現場にオフィシャルで行って、仕事は仕事でした後に裏口に回って、そのファッションショーのモデルちゃんたちがその現場に着て来た私服をパパラッチする、本当にみんなが知りたいのは着させられてる服じゃなくて、普段着てる服だよ」って中澤さんが言ってたのが印象的でした。 それにしてもすごいメンツですよね...
そうっすね、有名人だけじゃなくて、 当時ファッションショーの写真てラン ウェイを真正面からっていうのしかな かったから。その写真の裏側ってやっぱりもっと面白かったり、いい瞬間がたくさんあってそっちにもっと惹かれるんス。モデルちゃんたちが一個現場終わって次の現場に急いで向かってるときとか、ファッションの現場に有名なラッパー来てるとか、やっぱリアルでカッコいいんすよね。東京のファッショウィークだとあんまりその熱量は感じられなかったんで。
平たい表現になっちゃうっすけど「リアル」とか「ドキュメンタリー性」みたいなところが中沢さんのキーワードなんですね。
ファッションてすごい速さで変わっていくし、なんかそういうファッションの記録としてもアーカイブ残しておきたいっていう気持ちもあったんですよね。 これがもう10年とか経ったらぜんぜん 違って見えてくると思うし。
セレブの写真
ちょっと変な聞き方ですけど、今回の展示で飾られている写真の中で一番有名な人は誰ですか?
有名ってところでいうと...トラビス・スコットじゃないかな~
どうやって撮ったんですか?
N:彼はカニエ一派で、当時まだ頭角表す前だったんで、結構一人でファッションショーきたりとかしてる時期で。そろそろクるんじゃないかなっていうときに日本でツアーやるっていう情報見てそのツアー追っかけようってことで、勝手に。
出た、勝手に。(笑)
N:あれは東京のVISIONだったかな。裏の楽屋で写真結構撮れて。んで大阪も行っちゃおうってなって行ってみたら結構「イェイ」みたいな感じで撮れちゃったっスね。
え?どうやって潜り込んでるんすか?あの距離オフィシャルじゃないんすか?
オフィシャルじゃないよ! もちろんプロモーターに何人か知り合いはいたけど、ライブ終わったら楽屋に当然のようにメンバーと一緒に紛れて入っていって。(笑) 素知らぬ顔して入って撮ってるんで、なかなかミラクルな写真ですアレは。今となっては仕事でもあんなに目 線くれないと思いますね。それを適度な距離感で「誰だアイツ」ってなる前にシ レッと...
入っちゃえ!で入っていけるのがすごいですよね、普通入っていけると思っても入っていけないですよ!
有難いよね~(笑)もう堂々と当然のように入っていけばね、「俺です」みたいな。(笑)
中沢さんってセレブおっかけるのが好きなんですか?
そうかもしれないですね、好きな人おっかけるのが好きかもしれないです。有名になるともう撮れないものもあるんで、そういうのは結構写真の距離感で出るっスよね。そういう意味ではトラビスのあの写真は激レアですね。やっぱり現 場いくといろいろ起こるんですよ、カメラ禁止エリアの外で立ってたらたまたまレッチリのアンソニーが来て撮れちゃったり。そんなの狙えないじゃないですか (笑)
あまりに写っている人が有名すぎて、一瞬分からないですよね、中沢さんの写真なのかどうなのか。パッと見WEB から引っ張って来たんじゃないかくらいに見えちゃう。バージルの写真なんてもう絶対撮れないわけですし。
それね~「GOTHAM TIMEZ」をZINEにしてみても結構伝わらなかったんですよね~ぜんぶ僕が撮ってます!
カメラというメディア
25年間フォトグラファーやってる中で、カメラって一番変わって来たメディアだと思うんですけど、デジタルへの抵抗ってなかったんですか?
僕は無かったですね。抵抗っていうよりもお金の問題とか実務上の問題のほうが大きかったかな。今の携帯のカメラなんかよりよっぽどしょぼいデジタル一 眼を最初に手に入れて、初期のマックのノートpc買って頑張ってました。ある時期から雑誌の編集の人がフィルムのことが分かんなくなってくるんですよ。わ かりやすいのはクライアントに対して 「印刷しますか?」っていう質問だよね。
そっか、昔は印刷前提だったけど今は印刷する方が少なかったりとかしますもんね。「WEB 載せますか」っていうのと割合が反転したかんじなんすね。中沢さんからみて今のスマホのカメラとかってどう思うんですか?
ちょーどいいよね。なんというか「ウマイ!」ってかんじ。逆光のシチュエーションとか、顔を明るくすると背景が飛んじゃったりするんですけど、スマホのカメラはちょうどよく両方映るようにするじゃないですか。あれはウマイっすよね。花火大会の写真とかって実はめちゃくちゃ難しいんですけど、スマホのカメラだとうまいこと撮れる。
スマホでみんなが写真撮れるようになって、今までよりもみんな目が肥えてると思うんですけど、やっぱりその分緊張感あるんですか?
あるね~...一番自信をなくすのは、ハイブランドのイベントでインフルエンサーの方達の写真を僕はプロとしてメ ディア用に撮影するんですけど、それよりもインフルエンサーの方達ご自身で撮 影なさったものが採用になってたりすると負けたなーって感じしますね
うわーこわい話...「セルフィー」の画角とかって新しい概念すよね、デジタル一眼であれはできないじゃないですか
そうだよねー、でも知ってる? 昔の「写ルンです」にはレンズ側に鏡が付いてて、それみながらセルフィーできたんだよ!すごいでしょ?富士フィルム!
フェスファッション
最近だとフェスのスナップのZINEも出してましたね
そうっすね、フェスの方はセレブを撮るっていうより遊びにきてる子たちのスナップっすね。フェスの面白いのはその時代の音楽によってファッションが全 然違う。ファンの着てる服のジャンルが 変わるのも、音楽の主流が変わったからで、また時間が経って見返すとぜんぜん違ったものに見えて来たりするんで面白いっスよね。
確かに。音楽によってぜんぜん違いそう。
N:いい感じのマーチャンダイズ着てる子見かけたら「なにそれいいじゃん」とか言って欲しくなっちゃって、良い歳こいて若い子に混じって物販の列に40分とか並んじゃって、MサイズかLサイズか聞いちゃったりしてさ、楽しいよね~
51+49について
今回の展示ではyassutaka さんとのDUAL EXHIBITIONなんですけど、今までに2回やってますよね。いままでと今回だとなんか違ったところはありますか?
そうっすね、いままでの2回は SMOKE MORE POP ってタイトルで「僕 のセレブの写真にyassutakaくんがタバコを持たせる」っていうルールでやってたんですけど、今回はルール無しで やってみて、正直難しかった! 今までの2回は僕の写真が「お題」になってたん ですけど、今回はyassutakaくんの絵に合う写真を探してみよう、っていうイーブンな比重にしようと思ったんです。僕の風景写真にyassutakaくんの絵をハメ込んでもらおうと思っちゃってたのが良くないのかもしれないんですけど、苦戦しまして...でも二人で何回かや りとりしながらやっていくうちに良くなっていきましたね!
描き足す前提の写真じゃないですもんね
そうなんすよね、僕のお気に入りの写真を最初送ってたんですけど、お気に入りってことはもうその写真は僕の中では完成されてるので、yassutakaくんにも「これは描く隙がないね」みたいに言っていただいて、嬉しい反面難しかったです。
想像を超えて来たものってありますか?
ありますね!キャンバスに貼ってあるものとか、yassutakaくんが僕の最近の手法である「透明なレイヤー感」みたいなところをうまく生かしてくれて、不 思議なレイヤー感を出せたものがあります。キャンバスに貼るって時点で写真家 からするともう新鮮だったり。あとはぼくはすごい雑な分、言い方アレですけどyassutakaくんが...ネチネチやってくれて(笑) ぼくは「もういいんじゃね」とか思っちゃってたんですけど、出来上がるの見るとやっぱりめちゃくちゃいいんですよね…!勉強になります!
中沢さんはファッションを撮ってて、 49歳でも20代の感性に波長を合わせていきたいとかってあるんですか? というのは中沢さんが新しいものを否定してるところを見たことがなくて...全部勉強になります!っていう姿勢なので…
正直そこは半分、仕事での対応力のためかもしれないですね。プロとして、こういうふうに撮ってほしいって言われた時にできるだけ対応できるようにっていうところで、引き出しをとにかく増やして、それについてちゃんとリスクとか 雰囲気をちゃんと説明できる準備として、常に勉強したい。だから展示とは全く別の、商業写真家としての意識だと思います。
やっぱり展示はアーティスト/中沢 功一、仕事はクリエイター/中沢功一ってことなんですね!
中沢は両方本気だぞ!っていう(笑) よろしくお願いします!